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代表理事

パラダイムシフト


 お盆休みに西日本を直撃した台風10号。多くの人が大移動する中、公共交通機関の計画運休や大手デパートや観光地の臨時休業など、経済的損失よりも安全が最優先されることが当たり前の世の中になってきましたね。

 世の中の常識や価値観が変化することを「パラダイムシフト」といいますが、まさに災害予防対策に関してはここ数年でパラダイムシフトが起こったように思います。

 これまでの常識や価値観が覆されるとき、人間の柔軟性も試されるように思います。これまで正しいと思って貫いてきた価値観が、ともすれば180度変化して、間違っている価値観と認定されることもあるのですから。

 いかに柔軟に変化を受け入れられるかが大切ですね。

 私が理学療法士になったころは、リハビリといえばまだ医学モデル中心の考え方で、「病気やケガを治す」「障害を克服して健常に近づける」といった考え方が主流でした。その基盤となっていたのがWHOの国際障害分類(ICIDH)です。

 これは障害を「機能・形態障害」「能力障害」「社会的不利」といった3つの階層で捉え、障害というマイナス面を減弱させることがリハビリテーションの基本的な役割でした。

 ところが私が理学療法士として最初に就職した重症心身障害児施設では、ICIDHの概念は通用しませんでした。目の前にいる入所者さんたちは、自分よりもはるかに年上で、生まれてからずっと障がいをもって生きてきた人たち。「治す」とか「克服する」とかいうレベルの話ではない。しかも学生時代に実習で担当させていただいた患者さんよりももっともっと重い障害を抱えていて、リハビリでどんな変化を与えられるか、途方に暮れてしまいました。

 そんな時に出てきた考え方が、国際生活機能分類(ICF)です。

 ICFも障害を階層で捉えることに変わりはないのですが、障害をマイナス面からだけでなくプラス面でも捉え、「マイナス面を減弱させる」のではなく「プラス面を伸ばす・活かす」のもリハビリテーションの重要な役割となったのです。

 加えてICFでは障害を機能や能力だけで捉えるのではなく、「個人因子」や「環境因子」からも捉え、さらには「病気」→「機能障害」→「能力障害」→「社会的不利」と一方向の関係性で捉えていた障害を相互方向から捉え、それぞれの構成要素が互いに影響しあっているという考え方にパラダイムシフトしました。

 大きな壁にぶつかっていた私はICF概念の登場で救われました。目の前にいる重い障害を持った人を「あれもこれもできない人」ではなく「こんなことができる人」ととらえられるようになったことで、リハビリをしていても楽しいと思えるようになりました。また医学モデルだけではなく生活モデルでリハビリテーションを行うことが認められたことで、仕事の幅も広がったように思います。

 ところがICF概念が登場して間もなく20年になるというのに、いまだにリハビリテーションの世界では、障害をマイナス面だけで捉え、それを治すことだけがリハビリテーションだと捉えているセラピストがたくさんいるそうです。

 ある研修会で「理学療法士はICFが苦手」と言われていたのにはびっくりしました。また児童発達支援管理責任者の研修でも「ICFは大事」とは言われたものの、内容はすっ飛ばされるという扱い…実は障害を持つ人の「プラス面を生かす」というパラダイムシフトは、まだまだ浸透していないのかもしれません。

 どちらかというと頭の固い私ですが、たまたま理学療法士として壁にぶち当たっていた時にパラダイムシフトが起こり、その概念に救われたのですんなり受け入れることができましたが、柔軟に対応できていない人が多いのかもしれませんね。

 今までの価値観を変えるのは、ものすごく難しいことであり、パラダイムシフトが起こるときは必ず反対の意見もあるはずです。しかし、時代の変化に対応していくことはどの世界でも必要です。

 ICF概念が身に付いたら、もっともっとリハビリテーションが楽しくなりますよ! そして患者さんや利用者さんのニーズに応じたリハビリとは何か、ちゃんと向き合って考えられるようになって、患者さんたちも喜んでくれると思いますよ!

 これから育っていくセラピストには、ぜひ新しい時代に応じたリハビリテーションを実践してもらいたいものです。

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